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レポート

2025年1月30日(木)

2024イベントレポート「ぬいぐるみお泊り会」

終了
Connecting Children with Museums

ぬいぐるみお泊り会

東京国立近代美術館


開催日 2024年11月2日(土)〜2024年11月10日(日)

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19世紀末から現代までの日本美術を中心に、国内最大級のコレクションを誇る東京国立近代美術館では、子どもと一緒に美術に親しむための取り組み「こどもまっと」の一環として「ぬいぐるみお泊り会」が行われました。

会場に集まったのは子どもたちではなく、かれらが大切にしているぬいぐるみ。展示室や休憩室で過ごすぬいぐるみの様子を写真に収めて届けることで、子どもたちに美術館の楽しみを擬似体験してもらおうという試みです。撮影は美術館の休館日である11月5日(火)、17体のぬいぐるみとともに行いました。

美術館にぬいぐるみがやってきた!

東京国立近代美術館は、東京メトロ竹橋駅からお濠にかかる橋を渡ってすぐのところにあります。

建物2階のテラスから景色を眺めるように並んでいるのが、今回の「お泊り会」に参加するぬいぐるみたち。

動物や各種のキャラクター、手のひらに収まるものから両手で抱えるサイズのものまでさまざまです。なかには、手づくりと思われる洋服や帽子を身につけているぬいぐるみもあります。

前日までに美術館に集合したぬいぐるみ。持ち主は、抽選で選ばれた中学生以下の子どもたちです。これから美術館の休館日に合わせて、ぬいぐるみだけの鑑賞会がはじまります。

所蔵作品展「MOMATコレクション」の会場で、最初に出会ったのはフランスの画家アンリ・ルソーの絵画作品です。

アンリ・ルソー《第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神》1905-06年

画面の上部には、青空を自由に舞う女神の姿が描かれています。一方、小さなぬいぐるみの視点に高さを合わせると、画面の下半分、地上に集った人たちの姿のほうがよく見えるかもしれません。

ぬいぐるみは何を見ているかな?と共感的に想像力を働かせると、作品の見方にも広がりが生まれます。

ちなみに、ぬいぐるみたちの下に敷かれたマットは、普段、美術作品を保護するために使われるもの。

絵画作品を移動するための専用台車も、この日だけは、会場を巡るぬいぐるみのための乗り物に。こうして美術館ならではの小道具が画面のなかに見え隠れするのも、このお泊り会の趣向のひとつです。

いろんな作品、いろんな見方

東京国立近代美術館のコレクションは、絵画や版画、彫刻、写真、映像やインスタレーションなど幅広く、その数約13,000点。「MOMATコレクション」では、そのときどきのテーマに合わせて、約200点の作品を会期ごとに展示しています。

4階から2階まで全部で12室ある会場をひと回りすれば、19世紀末から現代までの日本を中心とした美術の流れを味わうことができます。

続いては、日本の明治時代の作品を紹介した展示室。作品を囲むように椅子を並べてみると、ぬいぐるみ同士がおしゃべりしながら「対話鑑賞」をしているような雰囲気ができあがりました。

和田三造《南風》1907年

作品を鑑賞するときは、絵や彫刻などのそばに立って細部を眺めるだけでなく、ゆったり腰掛けて、作品がある空間全体を味わうのもいいものです。

そのための椅子は、美術館ごとの個性があらわれるポイントのひとつでもあります。

東京国立近代美術館の展示室にも、国内外のデザイナーズチェアがたくさん用意されています。なかには、和室のように畳の上でくつろぎながら、日本画を眺められるスペースもあります。

半日かけて美術館を満喫したぬいぐるみたちの写真は、シーンごとの全体カットに、個別に作品と一緒に撮ったカットを加え、まずはデジタルデータとして持ち主に送ります。

さらに後日、全部で24ページにまとめたフォトブックを制作し、こちらも合わせて持ち主に届けられました。デジタルデータだけでなく印刷物としても提供することで、小さな子でも自分でページをめくって楽しむことができます。

アンケートによれば、当初、大事なぬいぐるみを預けることに不安に感じていた子も、写真を見て「楽しかったんだね!」と喜んでくれたよう。

いつも一緒にいるぬいぐるみが、自分の知らない美術館という場所で特別な時間を過ごしている。写真から受ける不思議な感覚は、子どもたちの興味や好奇心を引き出します。

なかには「ぬいぐるみ君の見た絵を僕も見に行きたいな」「同じ場所から絵を見てみたい」という感想も寄せられ、お泊り会が、美術館に足を運んでみようと思う手がかりになり得ることが実感されました。

美術館版「ぬいぐるみお泊り会」のつくり方

もともと、ぬいぐるみお泊り会は、アメリカの図書館が発祥のイベントといわれています。

日本では各地の公共図書館を中心に、10年ほど前から広がりを見せていますが、美術館で実施された情報はまだそれほど多くないようです。

東京国立近代美術館としても初めての試みでしたが、今回20体の枠に対して約3,000件の応募がありました。参加者からも継続的な実施を望む声があり、今後の展開に期待が寄せられています。

イベントを企画した同館主任研究員の成相さんは「ぬいぐるみお泊り会は、美術館の楽しみをストレートに感じてもらえるもの」と話します。

一般的に美術館で行われる子ども向けイベントの多くは、作品と参加者双方の安全性や、子どもの集中力が保てる時間的な要素など、さまざまな制約を考慮してアレンジされています。

子どもの代わりにぬいぐるみが美術館に来るという構図は、一見、間接的にも思えますが、対面イベントに比べ安全面のリスクが少ない分、作品鑑賞そのものに焦点を絞って楽しみを伝えられるのではないか。そんな仮説をもとに、企画が進められました。

撮影では、ぬいぐるみの様子だけでなく、展示作品や空間の魅力が伝わる画づくりが重視されました。人が鑑賞する場合では難しい距離感で作品に迫れるのも、ぬいぐるみならではの利点です。

今回は作品の向きに合わせてぬいぐるみを並べる以外、個々のポージングなど特別な演出やストーリー設定は行っていません。ぬいぐるみが、どんなふうに作品を見ているか、写真を見た人が想像する余地を残しています。

ただ並んで眺めているという状況をつくるにも、個々のサイズや首のつき方によって、作品のほうに視線を揃えたり、自立させたりするのが難しいこともありました。ときにはスタンドや、ほかのぬいぐるみの肩を借りながら配置を工夫しました。

自分のぬいぐるみが写真の中で寄り添いあう姿を見て、「美術館で、新しい友達ができたんだね」と感じてくれた参加者もいたようです。

運営にあたった同館の職員や研究員、インターンのメンバーは当初、預かったぬいぐるみに対してやや遠慮がちでしたが、撮影が進むにつれ、

「この子は、こっちの作品のほうが好きなのかもしれない」
「(窓から見える)皇居の石垣を熱心に見ているね」

など、ぬいぐるみの個性を想像しながら、配置を楽しむやりとりが現場で生まれるようになりました。

初対面の大人でも、自然と感情移入してしまうぬいぐるみ。普段からそれを大切にしている子どもたちを美術館に誘う案内役としてぴったりなことは、想像に難くありません。

美術館でのぬいぐるみお泊り会は、準備もオペレーションもシンプルですが、館の特色や地域性などとの組み合わせで、いろんな形に展開できます。今後、さまざまな美術館で取り組みが広がれば、今回参加できなかった応募者を含め、多くの子どもたちに美術鑑賞の機会を開くきっかけになるはずです。


取材日: 2024年11月5日
執筆・編集: 高橋佑香子
撮影: 永井文仁
※印の写真を除く

東京国立近代美術館

〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1

  • 車椅子、ベビーカーの貸し出し
  • 授乳室
  • ベビーシート(おむつ交換台)
  • 受付での筆談ボード
  • エレベーター
  • スロープ
  • 補助犬同伴可
  • 駐車場(お身体が不自由な方専用)
  • 多目的トイレ
  • 会場内の写真撮影(一部の作品を除く)
  • 救護スペース
  • コインロッカー
  • 中学生以下、入館料無料(企画展含む)

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