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レポート

2025年9月18日(木)

2025イベントレポート「みんなでアートを楽しもう!おしゃべりOK!にぎやかサタデー」

終了

みんなでアートを楽しもう!おしゃべりOK!にぎやかサタデー

国立西洋美術館


開催日 2025年8月23日(土)

  • 絵画
  • 彫刻・立体
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西洋美術の名作を楽しめる国立西洋美術館では8月23日(土)に、「みんなでアートを楽しもう!おしゃべりOK!にぎやかサタデー」が開催されました。子どもから大人まで世代を問わずみんなで会話を楽しみながら、美術に親しむイベントです。

当日は、常設展を無料で観覧できるほか、ポストカードを使った作品探しなどのアクティビティが用意され、子どもたちがのびのびと過ごす姿が見られました。また、小中学生向けに企画展の見どころを紹介した小冊子も、この日は世代を問わず来館者全員が手に取れるようになっており、大人にとっても、いつもと違う雰囲気で作品の魅力を発見する機会になったようです。

おしゃべりしながら作品を探しに

イベント当日は、夏休みも終盤。上野にある国立西洋美術館には朝9時半の開館直後から多くの人が訪れていました。普段は黒いスーツ姿のスタッフも、揃いのイベントTシャツを着用し、なごやかな雰囲気で出迎えます。

入口では、来館者全員にA5サイズほどのファイルが配布されました。

中には、常設展で紹介されている絵画や彫刻など作品の一部をあしらったポストカードが入っており、裏面に「ポストカードの作品を探しに行こう!」というメッセージが書かれています。

ポストカードは全部で10種類あり、どれが入っているかは受け取ってからのお楽しみ。家族と訪れた子どもたちは、お互いが手にしたカードを見比べながら、展示室へ入っていきます。

第一室は、19世紀を代表するフランスの彫刻家ロダンなどの作品が展示されています。好奇心旺盛な子どもたちと一緒に、安全に鑑賞を楽しんでもらうため、この日は作品を囲む“結界”も特別仕様に。

薄暗い空間で識別しやすい白いテープに、「さわらずにみよう」「このせんよりとおくからみよう」などの注意がやさしい言葉で書かれています。

国立西洋美術館の本館は、ル・コルビュジエによって設計されたことでも広く知られています。その特徴のひとつスロープで2階の展示室に向かうと、中世以降の絵画が紹介されています。

絵画の前で、「どうして裸なの?」「どうして骨があるの?」と素直な疑問を発する子どもたち。作品に添えられた解説や、タイトルを保護者が読み、会話を楽しむ様子も見られました。

展示室内の大きなベンチで休憩していた、小学校低学年くらいの男の子は、「あ、同じ絵だ!」と、キリスト磔刑の場面を描いた絵画を指差します。実は、会場の入り口付近にも、同じテーマで描かれた別の時代の作品が展示されており、その構図の共通点に気づいたよう。

また、「ドーレーミー、ドーレーミー」と童謡を口ずさむ声に振り返ってみると、美しい装飾模様を施した聖歌集が展示されていました。子どもの素直なリアクションは、唐突なようで、作品を新鮮な目で見る楽しさに気づかせてくれるものです。

さらに常設展会場は新館へと続きます。冒頭で紹介した10種のポストカードになった作品のうちのひとつは、ここに展示されています。

ある男の子は、19世紀フランスの画家コローが描いたナポリの風景画が、自分のポストカードの作品だと気づき、「絵の前で写真を撮って!」と家族を誘います。最初は偶然手にしたカードでも、会場内を探すうちに、作品への親近感が湧いてくるのかもしれません。

同じく新館には、クールべ、セザンヌ、マネ、モネ、ルノワールと、教科書にも出てくる著名な作家の作品が多く並びます。

また一角では、コレクションによる小企画としてピカソの人物画を紹介する展示も行われていました。

会場にいた2〜3歳くらいの女の子は、保護者のスマートフォンを手に夢中でピカソの絵を写真に収めていました。言葉を介して感想を共有することはまだ難しくても、この時、ここで子どもたちが何をどう見ていたのか、写真はありのままの記録になりそうです。

子どもと一緒にひとやすみ

2階から1階へ戻る階段のそばには、展示の順路やエレベーターの場所などを示した道標が設置されています。

ほかにも、出入り口など館内には数カ所、会場の地図やアクティビティの案内などを示した看板が用意され、どれも、赤や黄色、青など、人が多い空間でも見つけやすい配色となっていました。

また2階には1日限定のキッズスペースも用意され、ここでは午前と午後の2回、絵本の朗読会も行われました。

取り上げたのは、この夏刊行された『森のはずれの美術館の話』(文:梨木香歩、絵:ゲオルグ・ハレンスレーベン)という一冊です。

国立西洋美術館を題材としたストーリーで、家族と一緒に美術館にやってきた男の子が主人公。会場にも展示されていた《あひるの子》など、同館所蔵の3つの作品が登場します。絵本と合わせて発売されたあひるのぬいぐるみも、子どもたちに好評のようでした。

またキッズスペースの近く、普段ワークショップなどに使用している部屋は、授乳やおむつ交換ができる赤ちゃん休憩室に。休憩室の入り口付近や1階など、館内に数カ所ベビーカー置き場も設けられました。

常設展の出口付近にはレストラン「CAFÉ すいれん」があります。普段は、展覧会に合わせた特別メニューなども提供していますが、この日は、ハンバーグやエビフライなど、子どもに人気の料理が一皿に集合したお子様プレートが用意されました。

お子様プレートは1日限定ですが、離乳食の持ち込みなどには常時対応しています。

にぎやかさに誘われて

地下2階の企画展会場では「スウェーデン国立美術館 素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで」が開かれています。

会場で作品の細部に目を凝らす人たちが手にしていたのは、小さなビンゴカード。これは「素描でビンゴ!」と題されたアクティビティのツールで、ビンゴのマスには数字の代わりに展示作品の一部がトリミングして当てはめられています。なかには、すべてを見つけるために会場を2周したという大人もいました。

また、小中学生でもわかる言葉で鑑賞のヒントを紹介した小冊子も、この日は来館者全員が手に取れるようになっていました。子どもやその家族だけが主役ではなく、みんなで一緒に楽しむ雰囲気を醸成しようというのが、この「にぎやかサタデー」の特徴でもあります。

会場には、このイベントを目的に訪れた家族だけでなく、インバウンドや、夏休みの宿題プリントを携えた中高生、大人の友人同士などさまざまな層の来館者がいました。

国立西洋美術館には何度も来たことがあるという年配の女性からは、こんな話を聞かせてもらいました。

「普段は企画展だけを見て帰るのですが、今日は、常設展会場がすごく人が多くてにぎやかだったから、何かあるのかなと思ってそっちも見てきました。行ってみたら、知っている作品がたくさんあって。(一緒に来ていたご友人と)これは前にほかの美術館の展覧会でも見たね、これもそうだね、というような話をしていたんです」

見慣れたはずの場所でも、空間を共有する相手が変わると新鮮な発見があります。

未来のおともだちのために

この日、来館者に配られたファイルには、作品保護のための注意とともに「未来のおともだちのためにも大事にしてね」というメッセージが添えられました。「未来のおともだち」が同じように美術を楽しむためには、作品の保護とあわせて、美術館がさまざまな人に開かれた場であることも重要です。

国立西洋美術館で「にぎやかサタデー」の取り組みがはじまったのは2023年。当初は、小学生以下の親子連れを主な対象と想定して企画されました。ところが実施してみると、小さな声で会話をするのが難しい高齢者などからも、「おしゃべりOK」という前提はうれしいという声が聞かれました。

その一方で、にぎやかすぎる空間では鑑賞が難しいという特性を持つ人の存在も無視できません。そこで昨年度の「にぎやかサタデー」では、クワイエットルームを設けるなど、運営上の試行錯誤は続いています。

展示室に大勢の子どもがいたり、特別な設備が用意されたり。いつもと違う光景は、本来一緒に美術館を楽しむことができるはずの「おともだち」の存在を、周囲の人たちが意識するきっかけにもなります。

その気づきが、美術館はこうあるべきという暗黙のルールを少しずつ緩和し、間口を広げていくのだと思います。


取材日: 2025年8月23日
編集: 高橋佑香子
Photo: hitohiraphoto 秋田まり子