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レポート

2026年3月7日(土)

2025イベントレポート「ミニミニ人間になって たてものを めぐろう(リング・リング・ロング)」

終了
Connecting Children with Museums

美術館デビュー応援プログラム2025「リング・リング・ロング」

京都国立近代美術館


開催日 2025年12月23日(火)~2026年3月8日(日)

  • ワークショップ
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京都国立近代美術館では、2025年12月23日(火)から2026年3月8日(日)のあいだ、美術館デビュー応援プログラム2025「リング・リング・ロング」が開催されました。会期中は、工作のワークショップや展示室での鑑賞サポートプログラムなど、さまざまな企画が用意されています。

その一環として1月31日(土)に行われたのが「ミニミニ人間になって たてものを めぐろう」というワークショップ。高さ5cmほどの小さな人型の模型とスマートフォンを使い、美術館の空間をいろんな風景に見立てて写真を撮影します。当日は、小学校1年生から3年生までの子どもと保護者42名が参加し、親子で相談したり協力したりしながら、ユニークな作品づくりを楽しむ姿が見られました。

作品のそばにある子どもの居場所

京都国立近代美術館は、琵琶湖疏水のほとりにあります。建物1階のロビーは、大きなガラス窓を通してその景色を味わえる空間になっています。

「リング・リング・ロング」というプログラムのタイトルは、ロビーに常設されているリチャード・ロングの作品にちなんだもの。会期中は《京都の泥の円》という作品とほぼ同じスケールの円形のソファやテーブルが置かれ、絵本や工作の材料、触って楽しむ鑑賞ツールなども展示されています。

ロビーの入り口近くの「ロングリングテーブル」には、ポスターやチラシなどを大小の円形に切り抜いた素材が用意されており、自由に貼り合わせてお面がつくれるようになっています。

テーブルのそばには3階で開催されている企画展「セカイノコトワリ展」の一部としてインスタレーション作品が展示されており、時折、アコーディオンや日用品などが楽器として自動で音を鳴らします。工作に熱中していた子どもたちも、驚いて眺めたり、「見て見て!」と大きな声で保護者を呼びに走ったり。

ロビーという空間の解放的な雰囲気もあり、子どもたちはそれぞれ自由に居場所を見つけて過ごしている様子でした。一方、日当たりの良い窓際の椅子にはゆったりくつろぐ大人もいて、さまざまな目的を持った人たちが共存できる空間になっていました。

建物をじっくり見てみよう

1月31日に実施された「ミニミニ人間になって たてものを めぐろう」は、11:00、13:00、15:00の全3部制。昼過ぎに会場を訪れると、午前の回の参加者と思われる子どもたちが、ロビーに残って工作を楽しんでいる様子も見られました。

ワークショップは、まず講堂での簡単なレクチャーから始まります。講師を務めるのは、「リング・リング・ロング」の会場デザインを手掛けたVUILDのメンバーで、建築家・デザイナーの長岡勉さん。

「この美術館に来るのは今日が初めて、という人は?」という問いかけに、子どもたちのほとんどが手を挙げていました。レクチャーでは、この建物が「どうしてこの形になったのか?」というデザインの視点から美術館の紹介をします。

槇文彦氏の設計による京都国立近代美術館の外観は、京都の街並み同様、碁盤の目のように規則的なグリッドが特徴的。一方で、内部は線や面のリズムを意識したデザインになっています。

長岡さんは、同館が所蔵するモンドリアンの作品を例に、「デ・ステイル」というデザイン様式にも触れながら美術館の建築デザインの特徴を紹介し、今いる空間をみんなでもっと注意深く観察してみようと参加者に呼びかけます。

そこで、登場するのが「ミニミニ人間」です。

高さ5cmほどの白い人型の模型。このミニミニ人間を主役に写真を撮ると、講堂の壁が断崖絶壁に見えたり、絨毯のまだら模様が大きな池に見えたり。空間のスケールが違って感じられます。

この模型の裏面には粘着テープがついており、壁などの垂直面に貼り付けることも可能。さらにスマートフォンのズーム機能などを使うと、建物の内部を雄大な自然などの風景に見立ててドラマチックに演出することもできます。

ミニミニ人間は人間の実寸の30分の1と50分の1の2サイズ。ポーズも、直立とやや前傾の2種類があり、4組1セットで参加者に配布されました。異なる形のものを組み合わせて配置することで、人物の関係性や心情などのストーリーも生まれます。

ミニミニ人間の目で見る不思議な世界

まずは、ロビーで撮影スポット探しです。

小さい模型に視点を合わせて撮影するためには、しゃがんだり、椅子やテーブルの下を覗き込んだり、いつもと違う姿勢で空間を見ることになります。柱と壁の隙間や、壁際の消火器置き場など、ミニミニ人間と一緒に、空間の奥へ入り込んでいく参加者もいました。

椅子の背板を裏返してみたり、自分の体の一部を写り込ませてみたり、子どもも大人も手を動かしながらさまざまな表現を探ります。

続いて向かったのは、4階のロビー。コレクション展の会場の出入り口に面したスペースで、窓からは平安神宮の大鳥居が目の前に迫って見えます。

ここで、「みんなちょっと見て」と参加者を集める長岡さん。窓際にミニミニ人間を置き、低い視点から撮影してみせます。すると、手前の石材に鳥居の赤が映り込み、夕焼けのなかにいるような写真になりました。

「おお〜、きれい」という声を漏らす参加者たちに、長岡さんは「他の人が撮ったからもういいや、じゃなくて、みんな自分でもやってみてね」と続けます。

同じシチュエーションでも、ミニミニ人間の置き方やアングルによって印象の異なる作品が生まれます。ロケーションをあちこち探し歩くだけでなく、ひとつの場所をさまざまな角度から見比べてじっくり吟味することも、このワークショップの醍醐味です。

4階から階段を通って1階へ戻るころには、半円状の装飾を見て「これは地球みたい」というように、参加者自ら見立て遊びを楽しむようになっていました。

最後は、講堂に戻って鑑賞会。参加者はそれぞれ2枚ずつ写真を選び、タイトルをつけて発表します。

4階の窓から下を覗き込み、地上にいる人とミニミニ人間を同じくらいの大きさに写したもの。消火器の持ち手を怪物の口に見立てて撮影したもの。

タイトルにも、参加者の個性が出ます。写真の状況を説明するもの、ミニミニ人間にキャラクター性を与えたもの、なかには現代美術さながらの抽象的な概念のタイトルもあり、その発想力に大人のほうが感心する場面もありました。

ワークショップは1時間ほどで終了。保護者からは、「写真を通して、子どもが普段どんなふうにものを見ているか知ることができておもしろかった」「子どもと一緒に参加できてよかった。子どもがわくわくしているのが伝わってきた」という感想も聞かれました。

遊びながら入ってみる

このワークショップの特徴のひとつは、展示室の外で完結するということです。

子どもと一緒に美術館に行きたいという思いはあっても、展示室内では「触らない」「走らない」「騒がない」などの制約が多く、その雰囲気に緊張するという人は少なくありません。

一方で展示室の外にも、床や壁のさまざまな素材、手すりの意匠、変わったデザインの椅子など、美術に親しみ、創造性を育む手がかりはたくさんあります。今回のワークショップは、展示室で作品を見るというだけではない、美術館での楽しみ方の可能性を探るものでもありました。

今回、小学生と一緒に乳幼児の兄弟を連れて参加した家族からは、「美術館というと、小さい子ども連れには馴染みがないものだと思っていたけれど、来てみると授乳室やおむつ替えスペースもあって、意外とウェルカムな場所なんだという発見があった」という声もありました。

講師を務めた長岡さんは、企画の段階で美術館の担当学芸員とミニミニ人間で「遊んでみた」と言います。

「もともとミニミニ人間の仕様も、もっと大きいサイズや絵を描ける素材、紙製で手足を折り曲げられるものなど、いろんな案があったんです。でも、空間に置くだけで現実とは違うスケール感が出ておもしろいのは、今回用いた形でした。やっぱり実際に遊んでみることで、計画の外にも収穫があると思います」

ミニミニ人間を通して空間をじっくり見て想像を巡らせることは、展覧会で作品を見る態度にも似ています。また、自分で工夫して何かをつくる経験は、他者の表現に対する興味を引き出すきっかけにもなります。

まずは親子ともにリラックスできる状況で、遊びながら美術に触れてみる。その発想は、子どもの美術館デビューを、より気軽で楽しいものにしてくれるはずです。


取材日: 2026年1月31日
編集: 高橋佑香子
Photo: 成田舞