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レポート

2025年12月19日(金)

2025イベントレポート「こども映画館 2025年の夏休み★」

終了
Connecting Children with Museums

こども映画館 2025年の夏休み★

国立映画アーカイブ


開催日 2025年7月25日(金)・7月26日(土)・8月1日(金)・8月2日(土)

  • 映像
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国立映画アーカイブにて、こどもたちが映画を楽しむイベント「こども映画館 2025年の夏休み★」を開催しました。2002年から毎年恒例のイベントで、今年度は7月25日(金)、26日(土)、8月1日(金)、2日(土)の4日間の日程で行い、対象の中学生以下のお子さんたちとその保護者の方など、合わせて346名が来場しました。

4日間で日替わり4プログラムの企画です。1日目から順に、「心を通わせるのは人間だけじゃない」と題した日本の短篇アニメーション2作品で『やさしいライオン』(やなせたかし、1970)と『ある街角の物語』(山本暎一、坂本雄作、1962)を上映、2日目は「タクシーに乗って、東京の街をドライブしよう!」のテーマで三船敏郎主演の『吹けよ春風』(谷口千吉、1953)、3日目は「“歌のある無声映画”で旅してみよう」として『温泉悲話 三朝小唄』(人見吉之助、1929)と、現存最古の日本のアニメーション映画『なまくら刀』(幸内純一、1917)も併映し、4日目は「ハリウッドのコメディを楽しもう!」として『娘十八冒険時代』(グレゴリー・ラ・カヴァ、1928)を上映しました。

【「こども映画館2025年の夏休み★」チラシ】

ソーマトロープをつくろう

受付では、本物の35mmフィルムで出来た教材「フィルムしおり」などと一緒に、今年は視覚玩具ソーマトロープのキットを配布しました。ソーマトロープは、小さな丸い厚紙の表と裏に絵が描かれており、くるくる回転させると、表と裏の絵が合成された1つの絵になって見える視覚玩具です。当館が所蔵する、現存最古の日本アニメーション映画『なまくら刀』を元にして、当館独自のソーマトロープを作製しました。

ホールでは、開場中にソーマトロープの遊び方の説明動画を上映しました。動画をみながら、さっそくソーマトロープをつくって遊ぶこどもたちの姿が多く見られ、アンケートでも「面白い」との感想が多く、大変好評でした。このソーマトロープは、現在、国立映画アーカイブのWebサイトで制作キットをダウンロードできますので、来場できなかった方も、ご自宅や学校で、自分で作って楽しめます。

【ソーマトロープは図柄と色のバリエーションで計4種類作成】
【ソーマトロープは回転スピードの調整が重要】

【制作キット。国立映画アーカイブのウェブサイトでつくり方動画も見られます】

映画上映開始!

いよいよ開映時刻となりました。上映前に、スタッフが本日の上映作品について解説をします。映画の内容や、映画をつくった人の紹介、さらにフィルムや映写機の説明もあります。フィルムの説明のときには、こどもたちは配布された「フィルムしおり」の5コマを照明にかざして興味深そうに見ていました。

【「フィルムしおり」で映画が動く仕組みを学ぶ】

解説が終わると、映画の上映が始まります。1日目の『やさしいライオン』はアンパンマンでも知られる、やなせたかし演出の作品。同名の絵本も人気の映画で、こどもも大人も、ライオンと育ての親の犬の物語に見入っていました。また、『ある街角の物語』は戦争をテーマにした作品ということもあり、小さいお子さんが怖くなりすぎないよう、当館初の試みとして、事前に告知した上で明かりを少しつけたまま上映しました。明るさは事前に調整し、映写効果を大きく損なわないことを前提に、隣に座るこどもや大人の表情が認識できるくらいにしました。アンケートでもちょうどよい明るさだったとの感想を多くいただきました。

【1日目の上映後に、7階常設展で映画前史の展示「“写し絵”のオリジナル種板・公演器具」を見るこどもたち】

2日目上映の『吹けよ春風』は1950年代の東京を舞台に、タクシー運転手が様々な乗客の人生の一場面を垣間見る作品です。こども向けに作られた映画ではないので、こどもたちが楽しんでくれるか反応が気になっていました。映画が始まって、タクシー最初の乗客はこどもたち。お金を出し合ってぎゅうぎゅうになってタクシーに乗るコミカルなシーンに、観客のこどもたちからは笑い声も聞こえるなどみんな映画を楽しんでいる様子でした。

サイレント映画の世界に入ってみよう!

3日目と4日目はサイレント映画を、公開当時と同じ弁士と生伴奏つきで上映しました。弁士と呼ばれる人がスクリーンの横に立ち、ライブで情感こめて物語の説明をしたり、声色を使い分けて登場人物のセリフを言ったりする上映形態は、サイレント映画の時代に日本で独自の発展を遂げた上映方式です。3日目の上映作品『温泉悲話 三朝小唄』では、楽士の坂本真理さんの発案で、こどもたちが映画の盆踊りシーンにあわせて手拍子をすることになりました。上映前の練習を経て、さあ本番。こどもも大人も、いまから100年近く前の1929年の盆踊りに参加することができました。また、この日は、日本の現存最古のアニメーション映画『なまくら刀』も上映し、本作について学べる国立映画アーカイブ作成のこども向け鑑賞ツール「みんなの映画がっこう」からの抜粋も配布。登場人物のセリフを考える問いに、こどもたちは想像をめぐらし、考えて答えを書き込んでいました。

【手拍子の練習風景。左は弁士の尾田直彪さん、右はシンセサイザーの坂本さん】

4日目はハリウッドのコメディ映画『娘十八冒険時代』を上映。弁士の大森くみこさんの音頭で、ヒロインが悪漢たちと闘うシーンで、観客みんなでヒロインを応援します。とても昔の映画ではありますが、弁士の説明と楽士の生伴奏で、いままさに目の前で映画が生まれつつあるというライブ感を観客みんなで堪能しました。

【ヒロインをみんなで応援するためには、上映前の練習も欠かせない。左は弁士の大森くみこさん、右は電子ピアノの天宮遥さん】

また4日目は、こどもたちに「丸」をテーマに、ひとり4コマの絵を描いてきてもらい、これをつなげて1本の映画のようにして上映する「みんなでつくるアニメーション」も開催しました。上映は天宮遥さんの即興伴奏つきです。30秒ほどの映像ですが、拍手が巻き起こる素晴らしい作品になりました。

【「みんなでつくるアニメーション」完成作品】

映画の楽しんで学べる4日間

さらに、1日目と2日目は、7階常設展「NFAJコレクションでみる 日本映画の歴史」にて、研究員による映写機解説を行いました。こどもも大人もなかなか見る機会のない、古い国産映写機の仕組みの解説に、熱心に耳を傾けていました。また、こどもたち自身で常設展で映画について学べる「NFAJセルフガイド」を使って熱心に展示を見るこどもたちの姿もありました。「こども映画館」は、こどもたちが映画を見るだけでなく、手拍子や応援で弁士伴奏者と一緒に映画を盛り上げたり、みんなで1本のアニメーションをつくったり、展示室で古い映写機について学んだりと、映画をより深く多様な角度から楽しむ機会となりました。

【映写機の解説を真剣に聞くこどもたち】

執筆・写真: 国立映画アーカイブ