レポート
2024年9月3日(火)
2024イベントレポート:夏休みワークショップ「手ぶらでブラっと工作室2024~まるでホタル!?な缶バッジ~」
東京でも有数のアートスポットとして知られる国立新美術館では、8月10日(土)に夏休みワークショップ「手ぶらでブラっと工作室2024~まるでホタル⁉な缶バッジ~」が開催されました。事前予約が不要で、赤ちゃんから大人まで、誰でも気軽に参加できる缶バッジづくりのワークショップです。
会場には未就学児を連れた親子や三世代で工作を楽しむ家族のほか、大人同士のグループ、海外からの旅行者などの姿も見られ、参加者は1日で213人。色紙やテープなど質感や彩りもさまざまな素材を組み合わせて、自分だけのオリジナルバッジづくりを楽しんでいました。
さまざまな人が出会うアートスポット
東京・六本木にある国立新美術館は、国内最大級の展示スペースを誇る美術館。イベントが行われた当日も、現代美術や漫画に関する企画展が2つ、公募展が4つ、合わせて6つの展覧会が同時に開催され多くの来館者で賑わっていました。
館内にはカフェやレストランのほか、ミュージアムショップ、講堂、野外展示スペースなどさまざまな機能があり、無料で入れるエリアも多いことから、展覧会を観る以外にも多様な目的を持った人たちが訪れています。波打つガラスカーテンウォールが特徴的な建築を楽しむために訪れる観光客も少なくありません。
今回のイベントの会場となったのは、3階にある研修室。多くの人で賑わう企画展示室とは離れた少し静かな場所ですが、開場15分ほど前にはすでに3組ほどの親子がイベントに参加しようと会場の前で待っていました。
遊びながら、話しながら
制作するのは直径7.5cmの大ぶりの缶バッジ。円形の台紙にペンで絵を描いたり、色紙やテープをコラージュしたりして模様をつくります。使うのはハサミやペンなど簡単な道具のみなので、小さな子どもも一人で制作することができます。
参加費は缶バッジ1個につき100円、一人2個まで制作が可能です。受付を済ませて缶バッジの台紙を受け取った参加者たちはそれぞれテーブルに案内され、制作を始めます。
バッジの模様のもとになる素材は、千代紙や色紙、さまざまな質感の毛糸、キラキラのテープ、カラフルなマスキングテープなど。アルミホイルやスズランテープにモールなど、パッと見ただけでは使い方が想像できないような素材もあります。
素材がずらりと並んだコーナーは、選ぶ楽しさいっぱいのバイキングのよう。
ビーズやラメなど粒状のパーツは、必要な分だけ取り分けてテーブルに運べるよう、紙コップが用意されています。ビーズをスプーンで掬って、コップに流し込む。子どもたちは、まるでままごとのようなその作業自体にも熱中していました。
丸い台紙をお皿に見立て、丸めた毛糸を乗せて焼きそばに。重ねた紙にビーズを散らし、トッピングがカラフルなアイスクリームに。素材の手触りに触発されて、お店屋さんごっこで遊びながら制作する親子の姿も見られました。
簡単な模様であれば1個20分ほどでつくれるため、小さな子どもの集中力が保てる範囲で完結できるのもこのイベントの特徴のひとつ。母親に抱っこされた赤ちゃんも小さな指でシールを貼って模様をつくっていました。
最後は台紙にカバーを載せて専用のマシンで缶バッジのパーツにプレスします。
自分がつくった模様がバッジになる瞬間を興味津々で見守る子どもたち。プレス担当のスタッフも、なるべく子どもたちの意匠が形に残せるよう慎重にマシンを操作します。
お父さんと参加していた男の子は、出来上がったバッジを「おうちに帰ってママに見せる!」と大事そうに持ち帰っていました。
宝探しのように
参加者のなかには、時間をかけてかなり凝ったデザインに挑戦する子どもたちもいました。小さなシールを点描のように貼り合わせたり、アルミホイルを使って動物の形をつくったり、透過性のある素材を重ねたり。他の参加者の作品からもまた新しいひらめきが生まれます。バッジづくりというシンプルなテーマだからこそ、年齢やその子の特性によって、いろんな楽しみ方ができるようです。
用意された素材のなかで意外と参加者に人気だったのが、使われなくなった展覧会ポスターの切れ端。ポスターに描かれた動物の目玉の部分を切りぬいて新しい生き物を生み出したり、印刷された漢字を大胆に配置してみたり。美術館ならではの素材が、参加者の創作意欲を刺激しているようでした。
「ポスターから切り抜く作業をしているうちに、印刷された作品や展覧会に興味が湧いてきたと話す参加者の方もいました。自分でつくるという体験は、より能動的に、親しみを持って美術に向き合う機会になるのかもしれません」
そう話すのは、今回のイベントを担当した国立新美術館研究員の宮下さん。作品鑑賞に限らず、参加者それぞれが美術館ならではの思い出を持ち帰ってもらいたいという。
「素材コーナーには、台紙を切り取った余りや、短い毛糸など、半端なものもあえて織り交ぜて置いてあります。みなさんがどんな素材に興味を示すのか、実際に出してみないとわからない面もあるので、主催者の感覚だけで『これは使えないから捨てちゃおう』って決めつけないように気をつけています」
新しい刺激が生まれる場所
国立新美術館では開館当初から、展覧会に関連した講演会やアーティストによるワークショップなど、多種多様なイベントが行われてきましたが、ほとんどが事前予約制で、小さな子どもがいる家族や、たまたま通りかかった来館者が興味を持っても気軽に参加するのが難しい側面もありました。
そこで、誰でもその場で参加できるドロップイン型のワークショップとして2018年からスタートしたのが、この缶バッジづくりです。
はじまった当初から反響が大きく、毎年テーマを設けたり、材料の種類を増やしたりなど、参加者が制作をより楽しめるように試行錯誤が続けられています。
「手ぶらでブラッと」というテーマの通り、スタッフが付きっきりでなくてもマイペースに作業ができるよう、テーブルには多言語で手順の説明書が用意されています。
イベントの会場運営は、国立新美術館の教育普及室のスタッフと学生ボランティアのメンバーを中心に行われ、企画も同館でインターンとして活動している大学生が研修課題の一環として取り組んでいます。
素材選びやサブテーマの設定をインターンが主体的に行うことで、同じ手法のワークショップでも年ごとに少しずつ異なる特色が生まれています。今年はサブテーマである「ホタル」にちなみ、暗闇で光る蓄光素材が加わりました。市販の蓄光テープだけでなく、モールや台紙に蓄光の塗料をつけたオリジナル素材もインターンのアイデアで用意されていて、光の素材にもバリエーションがありました。
さらに会場には、出来上がった作品が実際に光る様子を観察するため、特製の暗室ボックスが用意されました。これも子どもたちにとっては楽しいアトラクションだったようです。
自分でつくったバッジを中にセットして「光るかな〜」と覗き込んだり、お友達の作品も「見せて、見せて!」と一緒に楽しんだり。
このボックスの穴からレンズを入れて撮影したバッジの写真は、室内のモニターに投影され、会場に隣接する廊下からも作品を見ることができます。たまたま通りかかった来館者も足を止めて、さまざまな意匠の作品やイベントの様子に興味を惹かれているようでした。
多様な目的を持った人たちが出会う美術館だからこそ、お互いの存在やアクティビティに触発され、新たなインスピレーションを与え合っているのかもしれません。
取材日:2024年8月10日
編集:高橋佑香子
Photo: haruharehinata